ストックオプションによる株式報酬制度
本日の日本経済新聞一面にストックオプションのルール改定案に関する記事が掲載されておりました。
ストックオプションはスタートアップやベンチャー企業が優秀な人材を集める手段として注目されており、その利用促進を法制面からも後押しする流れが今後さらに加速しそうです。
本稿では企業が主に従業員向けに導入する株式報酬制度の一つであるストックオプションの概要をまとめております。
従業員向けの株式報酬制度の目的はおもに個人のハイパフォーマンスへの報奨、良い人材の採用・リテンション並びに会社業績への関心の醸成で、種類としては従業員に株式そのもの(現物)を渡す場合と、ストックオプション制度があります。
ストックオプションは会社の新株予約権を報酬として支給する制度です。新株予約権自体では配当や売却益を生みませんが、あらかじめ決められた金額(権利行使価額)で株式を買う権利としての価値を持っていますので、株価が高いときに権利行使すれば差額の利益を獲得できます。そうした意味で株価上昇を求めるインセンティブを上げる目的に資する制度となります。
ストックオプションのライフサイクルでは時系列順に「権利付与 (grant)」、「権利確定 (vest)」、「権利行使 (execute)」の3つのイベントがあります。
権利付与日は文字通りストックオプションを付与される日です。制度によっては付与時点で行使が制限され、それ以降一定の勤務条件を経た後に行使可能となるものがあり、条件をクリアして行使可能となった時点を権利確定日といいます。従業員は権利確定日後、市場での株価が高ければ権利行使をして株式を取得し市場での売却等により利益を収受します。
従業員側での課税関係については権利行使時にその時点の株式時価と権利行使価額との差額が給与所得とされますので場合によっては納税資金を調達する問題が出てまいります。
この点、税務上「税制適格ストックオプション」の特例が設けられており、一定の要件の下、従業員が給与課税を繰り延べ、株式譲渡時のみの譲渡所得課税とする事が出来ます。
これにより従業員の納税資金対応の問題がなくなる事、所得そのものが譲渡所得のみとなって総合課税(累進課税)から外れる事などの面で優遇が受けられる制度となっております。その一方で、権利行使価額(保有者が権利行使時に払い込む金額)について発行時の株価以上での金額設定が要件となっており、株価が下がっていた場合は権利行使されず報酬はゼロとなってしまいます。
これに対し権利行使価額1円などで設定する株式報酬型オプションではオプションは常に行使され、従業員は実質行使時の株価相当額という、より大きな利益を確実に得る事が出来ます。その反面この方式は税制適格ではないので権利行使時に給与所得課税が出てまいります。この点、権利行使を退職時と定めて税務上有利な退職所得とする事も検討余地があります。
最後にストックオプションを従業員に有償で付与するかという問題があります。無償の場合には労働の対価を現物支給したものとして給与とされますので、税制適格要件を満たさないものは従業員に給与課税が発生します。
一方で上場予定の株式等、値上がりが期待される会社の場合には、有償で従業員にオファーする事も考えられます。評価額がオプションの数理計算等による合理的なものであれば、従業員は金融商品への投資をしたとされるため、権利行使時にも給与課税はなく取得した株式の譲渡益にのみ課税される取り扱いとなります。
上記のような税務上のメリットに加え、有償で取得したストックオプションであれば従業員自身も関心が高く、その価値向上により高い動機付けとなる可能性が考えられます。
了